日本ヘルスコミュニケーション学会雑誌
第12巻 第2号

学術論文

原著論文 コロナ禍の「マスク」着用に関する認識の特性探索 ~米国スペイン語話者のツイート内容の計量テキスト分析~

島﨑琴子、岩隈美穂

京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻医学コミュニケーション学分野

新型コロナウイルス感染症のパンデミックにおいて、これまでマスクを着用する習慣がなかった米国で一般人にも公共の場でのマスク着用が求められた。米国で感染リスクの高いエッセンシャルワークを多く担うヒスパニック系アメリカ人の「マスク着用」の認識についての時間的変遷は明らかにされていない。そこで本研究では、2020年4月3日にアメリカ疾病予防管理センター(CDC)が発表した「一般人のマスク着用」に関する声明前後のツイート内容の比較から、米国7州のスペイン語話者であるヒスパニック系アメリカ人の声明への反応を明らかにし、今後の新たな感染症予防にむけた情報伝達についての示唆を得ることを目的とした。2020年3月7日から5月7日に米国7州のツイッターに投稿された、スペイン語話者の「マスク」に関するツイート4,686件を計量テキスト分析した。結果、CDC声明により、ヒスパニック系アメリカ人の「マスク」着用の認識は、意見や批判文脈の単語「no(副詞的用法)」から疑問文脈の「使う」を主な特徴とする認識に変化した。新たな感染症予防にむけた情報伝達の示唆として、ツイッターデータ分析は「新しい生活様式への適応」といった予測が難しい探索的調査に向いていると考えられる。また、ツイッターデータが地域特有の課題に対する「情報源の一つ」となることが期待された。

原著論文 地方公共団体による地域活動の情報発信:2020年5月の緊急事態宣言解除後の東京都62市区町村ウェブサイトの内容分析

桑原恵介、黒田藍、加藤美生、石川ひろの

帝京大学大学院公衆衛生学研究科

背景 市区町村は住民の健康維持に関わる地域活動を支援するが、その情報発信の実態は不明である。 方法 東京都62市区町村のウェブサイトから緊急事態宣言解除後の2020年5月25日から同年6月14日までに発信された情報を対象に内容分析を行った。地域活動に加え、その補完的指標となる情報、活動実施に影響しうる情報、及び活動の情報発信に影響しうる要因の記述を抽出した。発信主体(首長と首長以外)別に各要因の実数(%)を算出し、地域活動再開に関する情報発信の関連要因を単変量解析で検証した。 結果 メッセージが確認できた49首長のうち、来島者向けであった3首長は除外した。どの首長も地域活動への言及がなく、社会活動への言及も少なかった。30首長が公共施設の利用再開を説明し、23首長は3密回避等を述べていた。ほとんどが新型コロナウイルスを認識した情報を発していたが、自粛による健康二次被害への言及はなかった。首長以外の発信情報は、首長とやや似ていたが、2市で地域活動再開の情報を発信していた。この再開の情報発信とどの変数も有意な関係を示さなかった。 結論 東京都内のほとんどの市区町村で、初の緊急事態宣言解除後に地域活動の情報発信はなかったことが示唆された。

原著論文 診療看護師(NP)の自律性と情動知能の関係性の検討

三好梨惠、阿部恵子、泉雅之、黒澤昌洋

愛知医科大学大学院看護学研究科

医療から介護における対象者と関係性を構築し,自律して横断的に関わる診療看護師(NP)のヘルスコミュニケーション能力は,健康アウトカムに影響を与える。診療看護師(NP)の自律性と情動知能の関係性を明らかにするために,自律性(DPBS),情動知能(TEIQue-SF)調査票を用いて,無記名自記式質問紙調査を行った。140通(回収率75.6%)の返信があり,診療看護師(NP)経験年数は,平均4.5 (±2.3)年であり,0.5年以上~3年未満が35名(25.4%),3年以上~6年未満54名(39.1%),6年以上が49名(35.5%)であった。自律性と情動知能に相関があり,情動知能の下位因子「幸福感」は自律性の全ての下位因子と相関があった。自律性,情動知能の両方に,年齢,経験年数の増加に伴い,関連のある下位因子と,関連のない下位因子が確認できた。また,自律性に関連している情動知能下位因子は,経験年数の低い群は「幸福感」,経験年数の高い群は「情緒性」に差があった。診療看護師(NP)の自律性は,経験年数によって,関連する情動知能因子が異なっていた。情動知能を高める事で,自律性が高まる可能性が示唆されたことから,情動知能を育成する教育が必要と考える。

研究報告 ベーチェット病患者が患者会に参加する意義に関する一考察

岡田純也(1、岡田みずほ(2

1)活水女子大学看護学部、2)長崎大学病院看護部

難病患者は、その病態の多様さや症状の変化と共に必要となる支援が種々に異なる。さらに、個別の社会的要因も相まって、画一的な支援ではニーズに合致した支援とはなりえない。そこで、患者の支援に繋げる意味でも、患者同士のピア・サポートである患者会の存在や役割は大きいと考えた。 本研究の目的は、希少疾患であるベーチェット病の患者会に参加する患者の語りを通して、患者会の意義を考察することである。A県のベーチェット病患者283名のうち、患者会に入会している20名の中で同意が取得できた4名を対象に半構造化インタビュー調査を実施し、質的帰納的にカテゴリー化した。その結果、患者会に入会前は、【病気によっておこる不安】、【診断がつかないことによって進まない治療】、【精神的苦痛】に苛まれている状況であった。【他者の勧め】、【自分の仕事への還元】、【ベーチェット病の認知度向上】、【病気や治療に関する不安の緩和】を理由に患者会へ入会し、【気持ちの変化】、【病気に対する不安の変化】、【交友関係の変化】が生じていた。ベーチェット病患者にとって患者会は、【心の拠り所】や【情報交換のやり取りができる場】であることが明らかとなった。

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