日本ヘルスコミュニケーション学会雑誌
第13巻 第1号

第13回日本ヘルスコミュニケーション学会学術集会報告

シンポジウム 1
「コミュニケーション」と「情報」の関係を問い直す-「リテラシー」は両者を繋ぐか-

中山健夫1)、杉森裕樹2)、木内貴弘3)、中山和弘4)、須賀万智5)

1) 京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻健康情報学分野、2) 大東文化大学スポーツ・健康科学部看護学科、3) 東京大学大学院医学系研究科公共健康医学専攻医療コミュニケーション学分野、4) 聖路加国際大学大学院看護学研究科、5) 東京慈恵会医科大学環境保健医学講座

ヘルスコミュニケーションの主題である「コミュニケーション」の隣り合う、もう一つの大きな領域として「情報」がある。しかし、健康・医療に関するコミュニケーションと情報の両方の視点から、両者の関係を論じる機会は少ない。人間は多様で個別性が高いため、情報の不確実な部分を中心に、個人の解釈、期待、価値づけが生じる。それは情報の送り手・受け手、双方の「リテラシー」に影響を受ける。本シンポジウムは、「コミュニケーション」と「情報」の「近くて遠い、遠くて近い」関係を捉え直すために、「リテラシー」の視点を加えて、これらのキーワードを繋ぐディスカッションの場として開催された。本シンポジウムでは各演者が「情報からコミュニケーションへ -リテラシーの役割」「情報に基づく意思決定のためのコミュニケーション」「コミュニケーション前提としてのヘルスリテラシー ~パブリックヘルスコミュニケーションの観点から」と題して講演を行い、全体討議を行った。本シンポジウムは、ヘルスコミュニケーションを起点とし、そこに情報とリテラシーを加えて、より広い視野と洞察を得る手がかりとなる貴重な機会となった。

シンポジウム2
危機の時代におけるコミュニケーション教育の取り組み -何が変化しどこへ向かうのか-

蓮沼直子1)、高永 茂2)、服部 稔1)、菊地由花3)、飯田淳子4)、木尾哲朗5)

1) 広島大学医学部附属医学教育センター、2) 広島大学大学院人間社会科学研究科、3) 広島大学病院総合内科・総合診療科、4) 川崎医療福祉大学医療福祉学部、5) 九州歯科大学

医療系教育においては、医学的知識・診察技能の習得のみならず、コミュニケーション教育、プロフェッショナル教育、行動科学、人類学、社会学などが医学教育モデル・コア・カリキュラムに記載されている。本シンポジウムでは4名の演者がそれぞれの立場から教育プログラムや講義内容など教育実践について報告を行った。また新型コロナウイルス感染症拡大により大学教育は大きな変化を迫られた。その一つは授業形態がオンライン化したことである。知識の伝達である講義については医療系学部では元々スライドによるものも多く、問題なく移行したと考える。その中で、行動科学、コミュニケーション教育、人類学、プロフェッショナリズム教育においてそれぞれが行っているオンライン講義、動画教材の活用、学生同士の意見共有・議論の工夫などについて報告された。また今後の展望やオンライン講義の限界、情報・ITリテラシー教育の必要性など情報共有でき非常に有意義な機会となった。

学術論文

乳がん治療と仕事の両立:患者と上司、同僚とのコミュニケーション

榊原 圭子1)、本間 三恵子2)、橋本 久美子3)、山内 英子4)

1) 東洋大学社会学部、2) 埼玉県立大学保健医療福祉学部、3) 聖路加国際病院相談支援センター、4) 聖路加国際病院乳腺外科

がんの治療と仕事の両立は日本社会の課題である。本研究は、女性に最も多いがんである乳がんに着目し、働く乳がん患者が治療と仕事の両立のために上司や同僚とどのようなコミュ二ケーションを行っているのかについて探索することを目的とした。2018年5月~2020年10月に、首都圏で働くがん経験者の女性12名を対象に半構造化インタビューを行った。逐語録化したインタビューデータをテーマティック・アナリシス法によって分析し、【がんや治療に向き合うための積極的な情報入手】【がん罹患の開示と周囲の反応】【職場復職後のメンバーとの関わり方】の3つのテーマを抽出した。分析の結果、対象者は、がんと向き合うために積極的に情報を入手し、周囲にがん罹患を開示、周囲に驚かれながらも支援を得、職場復帰後も継続的なコミュニケーションにより職場のメンバーと良好な関係を築き、仕事を続けていることが明らかになった。治療と仕事の両立には患者と職場のコミュニケーションが欠かせない。したがって、がん患者が病気の罹患を職場に開示でき、治療しながら働き続けることを当たり前とする職場風土の醸成が必要である。このような職場をつくることが、患者に必要とされる支援の提供、そしてがん治療と仕事の両立を促進するのに重要であることが示唆された。

ろう者を対象にした医療情報の翻訳における課題〜がん冊子の手話動画作成を通して〜

日本手話:https://youtu.be/eK3RWE8KdF8

皆川愛1)、高嶋由布子2)、八巻知香子3)、平英司4)、高山亨太5)

1)ギャローデット大学ろう健康公平センター、2)国立障害者リハビリテーションセンター研究所、3)国立がん研究センターがん対策研究所、4)関西学院大学手話言語研究センター、5)ギャローデット大学ソーシャルワーク学部

国内のがんをはじめとする医療に関する情報は、ほとんどが音声もしくは書記日本語によって提供されている。複雑化する治療環境の中で、日本手話を第一言語とするろう者は、適切な医療情報のアクセスや、情報の理解に困難があり、協働的意思決定が阻害されているおそれがある。そこで、国立がん研究センターが発行している患者向け冊子「大腸がん」の日本手話への翻訳が試みられた。本研究では、翻訳作業において交わされた議論を質的に分析し、ろう者がアクセスできる医療情報の作成において必要な技術や知識を明らかにすることを目的とした。104の論点が抽出され、「手話表現の推敲」「写像的表現の活用と調整」の2つのサブカテゴリーから成る【手話の言語特性を踏まえたより正確な翻訳】、「手話における医療表現の構築」「ろう者の社会状況に合わせた情報補足」から成る【ろう者に合わせたヘルスコミュニケーション翻訳】の2つのカテゴリーが生成された。日本手話による医療情報を提供するには、日本語から日本手話への正確な言語翻訳技術に加えて、ろう社会における文化や医療知識の文脈を反映した翻訳が必要であることが明らかになった。

科学的根拠が不十分ながん免疫療法の情報収集から受療までの患者の気持ちと医師の悩みに関する質的調査

早川雅代1)、渡部乙女1)、下井辰徳2)、一家綱邦3)、髙山智子1)、若尾文彦1)

1) 国立がん研究センター がん対策研究所、2) 国立がん研究センター 中央病院 腫瘍内科、3) 国立がん研究センター がん対策研究所/生命倫理・医事法研究部

【序文】クリニック等で科学的根拠が不十分で、かつ、自由診療として提供されるがん免疫療法は、医学的に有益ではないことが多く、高額な治療費を請求される等の被害が問題となっている。本研究では、がん患者及び医師双方へのインタビューにより、患者が当該療法の情報を収集し受療するまでの過程での気持ちと医師の悩みを明らかにし、被害を防ぐためのアプローチの検討を目的とした。【方法】当該療法について医師6名及び患者/家族5名に、半構造化インタビュー調査を実施し内容分析を行なった。【結果】患者/家族は「何かできることを探したい」気持ちや「不安」等から当該療法について情報収集し、標準治療等を実施するがん診療連携拠点病院等の医師には話しにくいと感じて、自分に寄り添ってくれるクリニックの医師に信頼を寄せている様子が伺えた。また、標準治療を実施する医師が当該療法の受療を否定しきれないがゆえに、患者は否定されなかったと受け取るミスコミュニケーションが起きている可能性が示唆された。【考察】被害の防止には、ヘルスリテラシーの向上や患者中心のコミュニケーションの支援、相談体制整備など多面的なアプローチの必要性が考えられた。

オンライン授業におけるカウンセリング動画活用型コミュニケーション演習の実施可能性および有用性

市倉加奈子1)、守屋利佳2)、千葉宏毅2)、井上彰臣3)4)、渡辺和広4)、荒井有美5)、島津明人6)、深瀬裕子1)、村瀬華子1)、田ヶ谷浩邦1)、堤明純4)

1) 北里大学医療衛生学部保健衛生学科、2) 北里大学医学部医学教育研究部門、3) 産業医科大学IR推進センター、4) 北里大学医学部公衆衛生学、5) 北里大学病院 医療の質・安全推進室、6) 慶應義塾大学総合政策学部

目的:公認心理師・理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・視能訓練士を目指す学生に対してオンライン授業におけるカウンセリング動画活用型のコミュニケーション演習を実施した際,学生の理解と自信が向上するかどうかを調査した。方法:オンライン授業は,e-learning事前学習(30分)とカウンセリング動画活用型コミュニケーション演習(90分)で構成された。演習では,カウンセリング動画を視聴させ,医療者がどのように応答するかを考えさせた。「聴き方スキル尺度(石井・新井,2017)」「コミュニケーションに対する理解と自信(独自作成Visual Analogue Scale)」は,自己記入式ウェブアンケートを用いて事前学習前,事前学習後,演習後の3時点で実施された。結果:事前学習前のアンケート回答者は139名である。聴き方スキルに3時点で変化はみられなかったが,患者とのコミュニケーションに対する理解,患者とのコミュニケーションに対する自信,臨床実習や実践に対する自信は,事前学習前から演習後で向上していた。結論:オンライン授業におけるカウンセリング動画活用型コミュニケーション演習を実施することで,学生のコミュニケーションや臨床に対する理解と自信につながる可能性が示された。

インターネット上Q&Aサイトに投稿されたがん患者の就労に関する質問内容の計量テキスト分析

藤田悠介1)、岩隈美穂2)、 星野伸晃1)、 肥田侯矢1)、 小濱和貴1)

1) 京都大学大学院医学研究科 消化管外科学、2) 京都大学大学院医学研究科 社会健康医学系専攻 医学コミュニケーション学

がん患者の生存率の向上に伴い,がん患者の就労支援が注目を集めている.そこで近年利用数が増加しているインターネットの投稿型質問応答(Q&A)サイトにおいて,がん患者の就労に関する情報ニーズを探索するため,質問内容の計量テキスト分析を行った.2016年4月から2019年3月に「Yahoo!知恵袋」に投稿された質問から,がん患者が就労者であると考えられる質問を150件抽出した.最頻出語は「手術」で,その他に「入院」「抗がん剤」などの治療に関する語,「会社」「復帰」などの就労に関する語が頻出した.共起ネットワークにより【手術に伴う入院通院期間】【抗がん剤の副作用や再発の可能性に関する体力や気持ちの変化】【職場での病気に関するコミュニケーション】【休職や退職に伴う保険や傷病手当と会社とのやり取り】【家族にかかる精神的・経済的な負担】のグループが描出された.がん患者の遠隔転移・再発の有無による対応分析では,転移・再発ありでは「抗がん剤」「体力」などの語,なしでは「手術」「経過」などの語が用いられる傾向があった.Q&Aサイトを用いた,がん患者の就労に関する計量テキスト分析は,就労がん患者の多様な情報ニーズの理解に有用であった.

医療面接における医学部留学生の発話分析―模擬患者に聞き返された留学生の日本語にはどのような問題があったのか―

品川なぎさ1)、稲田朋晃2)

1) 国際医療福祉大学大学院医学研究科、2) 十文字学園女子大学国際交流センター

本研究は,医療面接時の医学部留学生の発話において模擬患者からの「繰り返しの要請」を受けた発話について,言語の観点から分類し問題点を整理したものである.医療面接における模擬患者とのやり取りにおいて,留学生は日本人学生よりも模擬患者からの「繰り返しの要請」を多く受ける特徴があることが分かっているが,日本語の何が問題となって聞き返されるのかは明らかになっていない.そこで面接時の留学生の発話を日本語の観点から分析することにした.2020年3月に国際医療福祉大学1年生から3年生までの医学部留学生40名に模擬患者参加型の医療面接を実施した.留学生の発話を第二言語習得の誤用分析の観点から「発音」「語の選択」「文構成(文法)」「談話」の4項目に分類した.結果,「語の選択」が5発話,「発音」「文構成(文法)」「談話」の誤用はそれぞれ12発話であった.学年別では「語の選択」以外,3学年ともに誤用がみられた.医療面接においてコミュニケーションを阻害する要因は言語面の多岐にわたっていることが明らかになった.留学生には卒前教育の期間中に継続的に医療面接における日本語コミュニケーション・トレーニングを行う必要性がある.

動物病院での飼い主への説明文書作りにおける18年間の変遷

宮崎良雄

宮崎動物病院

筆者は、2003年7月から犬・猫を対象とした動物病院を経営している。開業当初から、日々の診療では「説明文書」を作って、それを飼い主に渡してきた。診療の説明を分かりやすくするためである。さらに、2011年6月からは「そのような文書を読みやすくするための工夫」について複数の雑誌で論じてきた。説明文書は最善と思った方法で作り、論文は最善と思った方法を述べたものである。しかし、それらの方法は、日々の実践や論文の執筆活動を通して変化していった。本稿では、この18年間を振り返り、飼い主への説明文書に対する筆者の「取り組み方」と「考え方」、「工夫」の変遷を整理した。例えば、次のような大きな変化があった。(1)難易度を中学生レベルから小学生レベルに引き下げた。(2)文書の詳しさより簡潔さを重視するようになった。(3)読みやすい文書を作るだけでなく読んでもらうための工夫にも気を配るようになった。これらの変化は、文書を作って渡し飼い主の反応をみるといった実践だけから生じたものではない。関連の研究や論文の執筆活動も大きなきっかけとなった。飼い主への説明文書を改良するためには、日々の実践と机上の考察の両方の反復が必要である。

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