日本ヘルスコミュニケーション学会誌
第13巻 第2号

原著論文

パブリックヘルスコミュニケーションにおけるユーモア表現の可能性:人生会議ポスターの比較評価

須賀万智

東京慈恵会医科大学 環境保健医学講座

パブリックヘルスコミュニケーションは公衆衛生活動の中心的役割を担うが、無関心・低関与層への働きかけが課題である。2019年の厚生労働省の人生会議ポスターはユーモア表現で一般市民の関心を引こうとした新しい試みであった。本研究では、パブリックヘルスコミュニケーションにおけるユーモア表現の可能性を検討するため、人生会議の普及啓発を目的としたポスター3種類を一般市民に評価してもらうアンケート調査を実施した。ユーモア表現を含まないポスター1(文字のみ)、ポスター2(語りの写真)とユーモア表現を含むポスター3(笑いの写真)を割付どおり比較すると(Full Analysis Set 解析)、ポスター3は相対的に関心喚起が強い一方、説得力が低く、抵抗が高いという結果であった。制作者の意図のとおりユーモア知覚を得られたプロトコル遵守者に限定して比較すると(Per Protocol Set解析)、ポスター3はいずれの項目も他より優れると評価された。ユーモア表現は無関心・低関与層を含んだ一般市民の関心喚起において有効な手段となる可能性があるが、大多数がユーモアと感じられる表現とする必要がある。

「障害」に関する情報ニーズに関する探索研究:Yahoo!知恵袋質問投稿文の計量テキスト分析

岩隈美穂1)、舟木友美2)

1)京都大学大学院 医学研究科 医学コミュニケーション学分野、2)京都府立医科大学大学院 保健看護学研究科

ソーシャルメディアは近年では情報交換だけでなく、投稿内容を分析し、その情報ニーズを明らかにする研究が多く行われるようになった。物理的バリアや偏見といった心理的バリアによって不利な立場に置かれやすい障害者やその家族にとって、CMCやICTは非障害者以上に重要な情報収集ツールであるにもかかわらず、これまで障害者に関する研究は見当たらなかった。そこで本研究では2004年~2009年の期間にYahoo!知恵袋上で投稿された4438件の投稿の質問内容をKHコーダーを使って計量テキスト分析を行い、障害に関する情報ニーズの探索を行った。頻出語30語の記述と共起ネットワークを作成し、5つのテーマ(【妊娠、子育て、親への心情】、【手帳申請手続きや取得による助成、年金に係る情報収取】、【受診の判断、完治時期や診断による新しい悩み】、【障害(者)をめぐる職場での人間関係についての悩み】、【事故後の後遺症や保険手続きに係る情報収取】)が抽出された。本研究から身近な家族や非障害者の知人から得にくい障害に関する情報ニーズが可視化され、CMCが情報収集だけでなく様々な役割を果たしていることが示唆された。

医療現場における手話通訳の課題~手話通訳者へのインタビュー調査の質的分析~

平英司1)、皆川愛2)、高山亨太 3)、香川由美4)、八巻知香子5)

1)関西学院大学手話言語研究センター、2)ギャローデット大学ろう健康公平センター、3)ギャローデット大学大学院ソーシャルワーク研究科、4)東京大学大学院医学系研究科公共健康医学専攻医療コミュニケーション学分野、5)国立がん研究センターがん対策研究所

手話通訳の派遣先として一番多い医療機関において、手話通訳者がどのような困難を経験しているのかは明らかにされていない。本研究は、手話通訳者が医療場面で感じる医療者の対応の課題やそれへの対応について、手話通訳者への質的なインタビュー調査により明らかにするものである。16名の手話通訳者にグループインタビューを行い、収集された語りについて、テーマ分析を行った。結果、224の発話が抽出され(A)医療場面での翻訳作業に伴う困難(B)医療者とろう者との関係調整への苦慮(C)医療者と通訳者との関係調整への苦慮(D)通訳者が機能しにくい場面での対応の苦慮、という4つカテゴリーに分類することができた。これらのカテゴリーの内容は、デマンドコントロールセオリーに一致するものであった。通訳者達は医療場面における言語の翻訳の困難さだけではなく、現場に介入する一人の通訳者として、ろう者や医療者との関係性の調整に苦慮していることが明らかになった。医療者と手話通訳者がろう者の患者の命を守るという本来の目的のために協働し、互いの専門性を発揮できる環境づくりや教育研修の実施が重要である。

書評

アーサー・クラインマン著「臨床人類学 文化のなかの病者と治療者」

田中奈美

順天堂大学大学院医学研究科医科学専攻

Copyright © Japanese Association of Health Communication