日本歯科コミュニケーション学会誌
第1巻 第1号

総説 日本歯科コミュニケーション学会設立と学会誌発刊

河口浩之1) 、長谷由紀子2)

1)広島大学病院 口腔総合診療科
2)静岡県立大学短期大学部 歯科衛生学

歯科医学におけるコミュニケーション教育の現状と将来展望

木尾哲朗

九州歯科大学 総合診療学分野

歯科医学 のコミュニケーション教育 は,平成に 入って 歯科医療人養成課程の重要な科目として注目されてき た. しかしながら,その 歴史の浅 さや 十分に体系づけられているとは言い難 い点があり ,他 の科目と比較して 新 たに 取り組むこと が難し く,歯科 医学の コミュニケーション教育や研究 を専門 に行っている教員も多いとは言え ない .そこで 本稿では, 歯科医学の コミュニケーション教育に携わっている歯科医療者や これから 教育研究に 携 わっていく 教員 を対象として, 歯科医学のコミュニケーション教育 をわかりやすく学べることを目的と する. 本稿は, はじめ に歯科医学教育白書 から 歯科医学のコミュニケーション 教育 の大きな潮流を読み取りたいと思 う. 次いで, コミュニケーション教育に影響を及ぼしていると考えられる因子 について 考察を行 う.そして 我々 が行ってきたコミュニケーション教育に資する研究や教育の一部 を紹介し ,最後に 本教育の 課題と将来展望につ いて触れたいと 思う .個々の 内容 について より詳しく 知りたい方は参考文献を参照していただきたい. 本稿 が,これから の歯科 医学 の医療コミュニケーションの 教育 や研究 ,さらには 連携医療の推進に 寄与できる ことを期待する .

医療現場におけるコミュニケーション―地域支援型多機能歯科診療所として見えるもの

岡本佳明1) , 樋山めぐみ1)

1) 医療法人社団湧泉会ひまわり歯科

本稿では、医療現場におけるコミュニケーションの役割と、それを支える地域支援型多機能歯科診療所の実践的 取り組みについて考察する。広島県に位置する当院では、「教育」「地域貢献」「多様な働き方」を基盤に、小児 や障害者、認知症高齢者など治療リスクのある患者への全身麻酔下治療や訪問診療、さらに摂食機能療法外来を 展開している。また、地域住民の健康啓発を目的に管理栄養士が運営するカフェも設置している。こうした取り 組みの背景には、歯科医療を取り巻く「 2040年問題」がある。歯科診療所の管理者の多くが高齢化し、事業継 承や閉院が進む中、無歯科医地区や歯科医師の偏在問題も顕著化している。本稿では、これらの課題に対して地 域の特性に応じた柔軟な応用力が求められることを提唱する。さらに、次世代を担う研修歯科医に対するコミュ ニケーション教育を通じ、患者および地域社会の問題解決に寄与する新たな歯科医療のあり方を探る。

歯科衛生士養成課程におけるコミュニケーション教育と実践

三分一恵里

明海大学保健医療部口腔科

歯科衛生士は口腔保健の専門家として、人々の QOL向上と健康寿命の延伸に貢献する。近年、口腔と全身の 健康の関連性が注目され、歯科衛生士の役割も多様化している。そのため、広い視野を持ち、多職種や患者家族 と円滑にコミュニケーションを図 る能力が求められている。しかし、教育課程においては、具体的な指導方法の 標準化が十分に進んでおらず、実践的な教育の充実が課題となっている。 現在、歯科衛生士養成課程におけるコミュニケーション教育として、 「知の呪縛」体験、基本的傾聴技法 の実 践、医療面接のロールプレーイングなどの実習を導入し、相手の立場を理解し、適切に対応する力を養うことを 目指している。これにより、臨床現場での円滑なコミュニケーション能力の向上や、患者との信頼関係の構築が 期待される。 今後は、コミュニケーション能力の客観的な評価方法の確立や、デジタル技術を活用した教育手法の導入な ど、より実践的な学習環境の整備が求められる。本稿では、歯科衛生士教育の現状と課題を論じ、今後の展望について考察する。

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