日本医療通訳学会
第3巻 第1号

大学(院)における医療通訳教育

服部 しのぶ

鈴鹿医療科学大学

医療通訳者の養成は、 1990年代後半、外国人住民の相談や支援を日常的にしていた NPO、ボランティア団体、国 際交流協会などが、通訳の必要性 が 高 まる 中、 独自に 行ってきた。 2010年に、医療通訳者の役割の明確化、通訳能力 や技術の担保、倫理規定の統一を目的とし、「医療通訳共通基準」がまとめられ 、 2014年には厚生労働省により「医 療通訳育成カリキュラム基準」が発表され「テキスト医療通訳」も作成された。これにより、すでに 、大学などで 実 施されていた 社会人対象 の 「医療通訳入門」など のプログラムに代わり、 医療通訳 の実務者と研究者を 養成 する 大学 院 で の教育 の始まりと なった。利点として、大学附属病院などでの実習、専門家による最新医療の講義、医療通訳に 関する研究手法 の獲得 が挙げられ る。 一方、多言語化する社会に対応するための教員の確保、修了後の進路・活躍の 場を見据えた教育、継続教育などの課題も ある 。大学院での医療通訳教育に期待されている役割として、研究者育成 と教員養成が挙げられるが、それらの両立を目指しながら、今後も医療現場で求められる実践力を身に着けた質の高 い医療通訳者教育を目指していくことが 望まれる 。

順天堂大学大学院における医療通訳教育

大野 直子

順天堂大学

2021年 4月に設立された順天堂大学大学院医学研究科公衆衛生学修士課程ヘルスコミュニケーション学位プログ ラムは、ヘルスコミュニケーション関連の研究を行う上での基礎力を身に着けるとともに、医療通訳(英語・中国語) に必要な専門的知識、技法、研究手法を体得することを目的としている。本プログラムの特徴は 3つある。まず、 2023年 4月入学者から、当学位プログラム修了者に対して、国際通用性の高い修士(公衆衛生学: MPH)を授与す ることとした。つぎに、活発な研究活動である。設立から 2024年現在の 3年間で、院生は査読付き学術雑誌に 論文 を 複数 発表し、学会発表を行った。さらに、 2年次に順天堂大学医学部附属順天堂 医 院にて病院実習を実施している。 本プログラム内の筆記・実技試験に全て合格し、修士課程修了に必要な科目を履修・認定されると修士(公衆衛生学) の学位が授与され、同時に日本医療教育財団が実施する医療通訳技能認定試験の基礎・専門試験の受験資格を得られ る。 カリキュラムを通じて、医療者と患者間の円滑なコミュニケーションを促進する専門人材の育成 と 、 専門領域に 関する 研究方法を習得した医療通訳者の養成を目標としている。

国際医療福祉大学大学院での医療通訳養成

押味 貴之

国際医療福祉大学医学部 医学教育統括センター

2017年度に開設された「医療通訳・国際医療マネジメント分野」では、 1年修了コース(医療通訳と国際医療マ ネジメントを学ぶ)と研究コース(医療通訳や医療の国際化に関する研究を行う)の 2つのコースを提供してい る。本カリキュラムには 3つの特徴がある。第一に国際医療マネジメントも学べる点である。厚生労働省の「医療 通訳育成カリキュラム基準」に準拠し、修了者は国際臨床医学会認定医療通訳士試験の受験資格を得られる。さら に外国人医療政策、国際医療ビジネス、医療機関の受け入れ体制などについても包括的に学ぶ。第二に実践的な医 療通訳技術 の養成を重視している点である。通訳技術の学習は座学を排し、医療現場を再現した形式で行う。専門 医による講義やシミュレーション、大学関連病院での実習を通じて、医療通訳者に必要な視点とスキルを身につけ る。第三に学生同士の交流が活発な点である。社会人学生が多く、能動的学習や学外活動を通じて同級生や修了生 とのつながりが強く、キャリア形成において重要な役割を果たしている。

大阪大学医療通訳養成コースについて

南谷 かおり1)2)

1)りんくう総合医療センター 国際診療科
2)大阪大学大学院医学系研究科 公衆衛生学

大阪大学は 2007年に大阪外国語大学と統合し、医療と言語の専門家が学内にいるという総合大学の強みを活かし て、 2011年 4月より人間科学研究科に「大学院高度副プログラム」として「医療通訳」コースを開講した。大学院生 を対象に医療通訳を教育するという試みは全国初であり、医療通訳士に求められる専門知識、スキル、現場での即戦 力の習得を目的とした。しかし、内容は充実していたにもかかわらず、実際には医療現場で実践可能な医療通訳者の 輩出には至らなかった。そこで、 2015年に医学系研究科に新たに社会人向け医療通訳養成コースを開講し、実践向 きの人材育成に取り組んだ。開講から 8年で約 280名の修了生を輩出し、国際臨床医学会が承認する試験の合格を経 て医療通訳士として学会認定されている。

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