日本ヘルスコミュニケーション学会雑誌
第16巻 第1号

第16回日本ヘルスコミュニケーション学会報告

特別講演 総説
医療モデルから生活モデル、そして社会モデルへ
~ケアの文化拠点に巻き起こるコミュニケーション~

紅谷 浩之1)、秋山 美紀2)

1) 医療法人社団オレンジ
2) 慶應義塾大学

在宅医療が発展した今日、重い障害や治らない疾患があっても、自宅や地域で自分らしく「健康的」に暮らす 人が増えている。これからのヘルスケアは、疾患を治療するという「医療モデル」よりも、その人の暮らしや人 生に寄り添い良いところをつないでいく「生活モデル」や「地域モデル」のアプローチがより重要になる。本特 別講演では、役割が固定される病院や施設とは異なる、「好きなこと」で人が集いつながれるような「ケアの文 化拠点」をつくる取り組みと、そこで起きている相互作用について発表された。「ケアする人」と「ケアされる 人」という関係性ではなく、互いに「友人」や「仲間」として出会えることで、その人が自身を元気にする力が 活性化されているとの報告があった。また、従来の健康の概念を見直し、「ポジティヴヘルス」すなわち自分な りの心身の状態、暮らしの質、社会とのつながりや生きがい等を本人主導で管理していくという健康観を普及さ せていく必要性も述べられた。医療福祉に関わる者には、暮らしに視野を広げ地域全体とつながり、本人のエン パワメントにつながるようなコミュニケーションをとることが求められる。

シンポジウム1
医療と生活をつなぐ場としての図書館
~ケアの文化拠点に巻き起こるコミュニケーション~

池谷のぞみ、酒井由紀子 1)、渡邊清高 2)、大林晃美 3)、藤坂康司 4)、彦田かな子 5)、中山健夫 6)

1)慶應義塾大学文学部
2)帝京大学医学部
3)市立小諸図書館、NPO 法人本途人舎
4)名古屋市守山図書館・志段味図書館
5)がん哲学外来メディカルカフェシャチホコ記念・一般社団法人 LINKOS
6)京都大学大学院医学研究科・医学部附属病院

一般の人々への健康医療情報サービスが公共図書館でも広がりを見せているが、医療者には必ずしも知られている ものではない。そこで、本シンポジウムでは医学・医療および図書館・市民の計4名から、お互いを理解するための 話題提供が行われた。まず、医療従事者によって、信頼性の高い医療情報提供や市民のヘルスリテラシー向上を担う 図書館への期待が述べられ、それらに伴う課題の指摘があった。次に、図書館員および患者会メンバーによる、二つ の公共図書館における多様な活動の実践報告があった。続いて指定討論者から、「病いと共に生活をする人々」が求 める情報の提供とコミュニティの健康増進を促す場として、図書館が市民を力づける可能性の高い社会資源の一つで あるとの認識が示された。フロアからはサービスの実践において重要な適切な情報源や資料の分類などについて質問 も寄せられた。本シンポジウムは、患者と医療者との共同意思決定や市民の健康促進に有効な「医療と生活をつなぐ 場」として図書館が機能する可能性を確認し、具体的な方策を検討する、医療者および図書館関係者が一堂に会した 貴重な情報共有と議論の機会となった。さらなる議論と実践の累積が期待される。

シンポジウム2
患者参加医療における共同意思決定の役割と課題

大坂和可子 1)、石川ひろの 2)、尾藤誠司 3)、河野佐代子 4)、中山健夫 5)

1) 慶應義塾大学看護医療学部
2) 帝京大学大学院公衆衛生学研究科
3) 医療法人財団慈生会野村病院
4) 慶應義塾大学病院看護部
5) 京都大学大学院医学研究科

近年、高度・複雑化する医療において、医療の質と安全の向上のための患者参加が注目されている。特に、患者 が治療や療養に関する意思決定に参加し医療者と共にそれぞれの持つ情報と価値観を共有し合意形成にいたる共同 意思決定(Shared Decision Making: SDM)は、患者中心の医療の代名詞とも呼ばれている。 我が国においても、医療の新しいコミュニケーションとして SDM の概念や考え方が普及しつつあるが、まだ臨床 で共同意思決定が根づいているわけではなく、課題もある。そこで、ヘルスコミュニケーションウィーク 2024 in Yokohama における第 16 回日本ヘルスコミュニケーション学会学術集会シンポジウム 2 では、SDM に関する概念、研 究の動向を概観した上で、SDM に関する取り組みの実際を取り上げた。本稿は、各シンポジストの報告と会場での 議論を共有する。

<学術論文>

原著論文
里親制度の効果的な啓発活動に関する検討
~戦略として活かすことができる実践的な施策内容の提案~

野口和久1)、河村洋子2)

1)熊本県県北広域本部福祉課
2)産業医科大学産業保健学部


目的 養育里親登録数増加につながる啓発活動を検討するため、インタビュー調査を通し、里親登録に関心を向 けやすいと考えられる層を特定し、効果的なアプローチ方法を整理することであった。
方法 認定希望者7組にインタビュー調査を実施後、内容をテキスト化・意味づけし、コード間で比較後、意味 毎に分類を進めた。
結果 登録には「関心のきっかけ」、「情報のニーズ」、「情報との関わり方」、「関係者や関係機関との関わり」、「里 親登録への関心や意識の変化・強化」、「里親登録に関心を向けやすいと考えられる層」、「関心を向けた者の気持 ちをより強固にするための取組み」、「登録の促進につながるアイディア」が関係していた。里親登録に関心を向 けやすいと考えられる層として、「養子縁組里親希望」「不妊治療をしている者」「福祉的な意識が高く、地域社会 とつながり、サポートを得ることができる者」を特定し、各層へのアプローチ方法を整理した。
結論 適切な情報提供、不妊治療をしている病院における配慮を伴った周知活動、適切なフィルター機能を追加 した啓発活動、里親家庭のオープン化、ホームページ情報の改善や工夫の戦略が重要であることが示唆された。

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