熊海黎1)、ニヨンサバ・フランソワ1)2)3)4)、野田愛1)2)3)5)、原和也1)2)3)、大野直子1)2)3)
1) 順天堂大学大学院医学研究科医療通訳
2) 順天堂大学大学院国際教養学研究科
3) 順天堂大学国際教養学部
4) 順天堂大学大学院医学研究科アトピー疾患研究センター
5) 順天堂大学医学部公衆衛生学
背景 医療の国際化に伴い医療通訳を介した診療が増加し、医療者は通訳者に対し高度なコミュニケーション能力 を求めている。本研究は、医療通訳者に必要なコミュニケーション能力とその関連要因を明らかにする。 方法 調査会社登録の医療者モニターを対象に非確率抽出法を用い、99 名から有効回答を得た。オンライン調査で 基本属性、医療通訳の認識・経験、待遇、求めるコミュニケーション能力について尋ね、Spearman の順位相関係 数と二項ロジスティック回帰分析で検討した。 結果 医療者が通訳者に求める能力として、反応スキル、言語・非言語・異文化・対人コミュニケーション能力、 患者と医療者の関係への理解力、文化仲介能力が明らかになった。また、医療職種によって通訳者への期待は異な り、医師以外の職種(OR = 0.14, 95% CI: 0.04-0.46)が、より高度なコミュニケーション能力を求める傾向である。 考察 医療者は通訳者に、医療者と患者の意図や感情を理解し、信頼関係を築き、文化的な違いを橋渡しする能力 を求めている。また、看護師をはじめとする医師以外の医療職は、患者とより長時間かつ多面的に関わり、情報取 得における会話への依存度も高いことから、医師よりも高い通訳能力を求める傾向が強い。
管原清子1)、手島れのん 2)、渡邊清高 2)、萩原彩乃 3)、永谷幸子 4)
1) 静岡県立大学看護学部本研究は、看護学生の表情認知能力とコミュニケーション・スキルとの関連を明らかにすることを目的とした。 表情認知能力は成人版表情認知検査、コミュニケーション能力はコミュニケーション・スキル尺度 ENDCOREs を 用いて測定し、Pearson の相関係数を用いてその関連性を分析した。調査対象者は看護学部 4 年生84 名であった。 成人版表情認知検査の正答率の平均は 78.3%であった。成人版表情認知検査とコミュニケーション・スキルの相 関分析の結果、ENDCOREs のメインスキルの内、解読力と表情認知能力との間に有意な正の相関がみられた。ま た、ENDCOREs のサブスキルの内、道徳観念、表情表現、情緒感受の 3 つで、表情認知能力との間に有意な正の 相関がみられた。表情認知能力と有意な正の相関がみられたのは全て、コミュニケーション・スキルの中でも基本 スキルに位置づいていた。表情認知能力が高い人はコミュニケーション・スキルの基盤となる基本スキルが高い と考えられる。これらのコミュニケーション・スキルの成長を促すことは、看護学生にとって看護の対象の表情を 認知する能力の向上につながると考えられた。
永田実沙 1)
1) 兵庫医科大学薬学部和歌山県立医科大学薬学部では 1 年次の授業の一環として、視覚・聴覚・構音障害に関するロールを与えたメ ンバーとの日常生活で行う内容に近い合意形成を行う SGD を行っている。本研究では、この SGD が学生のコミ ュニケーションに対する意識にどのような変化をもたらすかを明らかにすることを目的に、2021-2022 年度に SGD を体験した194名のSGD前後のレポートをテキストマイニングにより検討した。事前では「コミュニケーション」 という単語は「内容」「方法」と同一のクラスターとして出現したのに対し、事後では「不安」「障害」などと同一 のクラスターとして出現した。不自由を抱えた方との合意形成を主眼とした SGD を体験することで、「どのよう な手段で伝えるか」という方法論的な知識に基づく意識から、情報を実際に受け取る側の困難に着目したコミュ ニケーションに対する意識へと変化したと考えられる。本 SGD は、薬学生が、将来薬剤師として職務を遂行する 上で必要となる対応や配慮を考える契機になることが示唆された。
山中知子1)、錦織史子2)、横山詞果3)、日吉和子3)
1) 藍野大学医療保健学部看護学科
2) 立命館大学大学院人間科学研究科博士課程後期課程
3) 太成学院大学看護学部
欧米では子ども・若者を対象としたユースクリニックがあり、これは国が運営する無料の医療的健康相談 の場となっている。しかし日本では国が運営するユースクリニックは未だなく、我々は A市の後援で 2023年 11 月よりユースクリニックを開始し、その後、対面相談以外でも子ども・若者の相談を受け付けられるよう に公式 LINE を創設した。そこで本研究は、子ども・若者の公式 LINE 相談及び連携の現場と、今後の課題を 明らかにすることを目的とした。公式 LINE相談は 2024年 4月~9月の間に利用者が 8名、平均相談時間は 1 回につき約1時間であった。公式 LINE からユースクリニックの対面相談に繋がることはなかったが、対面相 談をした者が体調管理や不安に思うこと等の相談で公式 LINE を通して繋がりを持つ事ができた。また、病院 や支援先への同行時の連絡ツールとして使用できた。今後の課題として、本活動を継続していくための人材 確保、資金調達、及び LINE 相談に応じるための SNS カウンセリングのスキルアップの必要性が明らかとなっ た。加えて公式 LINE 相談の広報を行い、広く知ってもらうことで LINE 相談件数の増加の必要がある。
早川雅代1)2)、、渡部乙女3)3)、志賀久美子3)、八巻知香子3)、高山智子3)5)
1) 東京大学医学部附属病院企画情報運営部
2) 慶應義塾大学薬学部医薬品情報学講座
3) 国立がん研究センターがん対策研究所がん情報提供部
4) 東北大学大学院医学系研究科公衆衛生学分野
5) 静岡社会健康医学大学院大学社会健康医学研究科
序文:診療ガイドライン(GL)等の科学的根拠に基づく情報整備が進んでいるが、これらの情報が実際にどの程度 活用可能かは明らかでない。本研究では、乳がんの相談記録を用いて国内の 3 種の情報源(診療 GL、患者向け GL、 がん情報サービス)が、患者の疑問にどの程度対応可能か、また非対応の場合に必要な情報や支援を明らかにする ことを目的とした。 方法:70 件の乳がん電話相談記録から 489 個の疑問を抽出し、3 種の情報源が参考情報になるかを調査した。参 考情報がない疑問の内容分析を行い、対応手段を質的に検討した。 結果:358 個(73.2%)の疑問に参考情報が存在し、患者向け GL で 62.2%、がん情報サービスで 52.8%、診療 GL で 32.1%含まれていた。参考情報がない 131 個の疑問は、「理想的な治療を受けるための手段」と「治療や自分に対 する不安」に分類された。 考察:疑問に対して、国内の科学的根拠に基づく主要な情報源全体の約 7 割に参考情報が存在し、多くの疑問に 対応可能であることが示唆された。一方で、治療の選択や進め方、不安に関する相談においては、参考情報が存在 しない傾向が認められた。これらの結果から、信頼できる情報と相談支援の連携を密にした対応の必要性が示唆 された。
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