瓜生原葉子 1)2) 、中山健夫 3)2) 、 金丸 徳敬 4) 、藤平春加 5)2) 、岡田彩 6)2) 、的場匡亮 7)
1)同志社大学 商学部
2)同志社大学 ソーシャルマーケティング研究センター
3)京都大学大学院医学研究科 社会健康医学系専攻健康情報学分野
4)アステラス製薬株式会社 アドボカシー部
5)ビクトリア大学ウェリントン校、商学部マーケティング・国際ビジネス学科
6)東北大学大学院 情報科学研究科
7)昭和医科大学 保健医療学部
本稿 は、 シンポジウム「ソーシャルマーケティング の可能性 ―どのような 社会的価値 を共創 するのか ―」の 議 論を整理・考察したものである。本シンポジウムでは、ヘルスケア領域におけるソーシャルマーケティング実践 の報告を 基に、社会的価値の創出と共創プロセスの意義について多角的に検討された。各報告では、対象者との 対話や協働を通じて、行動変容の促進 のみならず 、実践者自身の価値観や意識の変容が生じることが示され、ソ ーシャルマーケティングが倫理的かつ反省的実践として深化しうる可能性が示唆された。また、「社会的価値」や 「ソーシャルグッド」が固定的に与えられるものではなく、現場の参与を通じて再定義・共有されていく動的プ ロセスであることが明らかとなった。本稿は、こうした議論を通じて、ソーシャルマーケティングが複雑化する社会課題に対して応答的かつ関係的なアプローチを提供する有効な枠組みであることを示すものである。
金丸徳敬
アステラス製薬株式会社 アドボカシー部
日本では国民医療費が増加の一途をたどり、医療費抑制策の影響により必要とする医療の持続性が懸念されて いる。この社会課題解決の一助として 国の政策はもちろんのこと 医療利用者である市民が、地球環境と同様に医 療も有限な資源と認識し 、日常 生活の中で実践可能な行動にはどのようなものがあるのだろうか。 今回、ソーシ ャルマーケティングを用いて“医療のエコ活動 ”を市民に促す社会実装イベントを市民コミュニティと共に 実施 した 。 対象者は子供の健康に関心が高い子育て世代の母親層 である。対象者への インタビュー 調査から導出された要 素(楽しい・役に立つ・繋がり)を組み込んだ体験型ブースを企画した。この体験で「日本の医療環境への不 安、医療課題への重要性の認識」が高まり、約 9割が「医療のエコ活動を取り組む意識(行動意図)」を示し た。医療課題の重要性を認識するこ とが「医療のエコ活動」を促す要因の一つになることが示唆された。 ソーシャルマーケティングの活用により、対象者の障壁を上回るベネフィットを特定し施策に反映させたこ と、異なるケイパビリティを持つパートナーと共創することで、多数が行動意図を示す実効性の高い社会実装と なった。
藤平春加
ビクトリア大学ウェリントン校、商学部マーケティング・国際ビジネス学科
本論では、現在の競争に重きを置いた社会構造に対して、「共創」という協働的なアプローチの可能性を探る。 本論では、ソーシャルマーケティングにおける共創の概念を紹介し、オセアニアでの事例を通じてその効果性と、 日本における新たな社会的・健康的課題に対応するための共創の適用可能性について考察する。
岡田彩
東北大学大学院情報科学研究科
ソーシャルマーケティングは、人々の行動変容を目指し、様々な働きかけを立案・実施するものである。関連 研究の多くは、その効果、すなわち、介入の結果として観察される対象者の行動変容に焦点を当ててきた。本研 究は、ソーシャルマーケティングに関わる人々に目を転じ、「ソーシャルマーケターには、どのような価値がもた らされているのか」という問いを検討するものである。 本報告は、ソーシャルマーケティングに従事した大学生を対象とした、グラウンデッド・セオリ ー・アプロー チに基づく帰納的な予備的考察である。結果として、対象者の反応が得られること、プロセスのおもしろさ、新 たな価値観や視点の獲得、将来に活かせること、社会に貢献できたという実感、エンパワーされたこと、などが、 ソーシャルマーケターが認識した価値として浮かび上がった。最後に、わずか数例ではあるものの、ソーシャル マーケティングの一連のプロセスを経験したからこそ、「ソーシャルグッドとは何か」を再考する反省的な (reflexive)視点が獲得されていることを指摘した。
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