日本ヘルスマーケティング学会雑誌
第4巻 第1号


総説 日本ヘルスマーケティング学会第4回シンポジウム
―ヘルスコミュニケーションを支える資金調達戦略―

的場 匡亮 1) 、榊原 圭子 2) 、 市川 衛 3)4) 、井上 祥 5)6)7) 、原 広司 8)

1)昭和医科大学 大学院保健医療学研究科
2)東洋大学 社会学部
3)武蔵大学 社会学部 メディア社会学科
4)READYFOR株式会社 認定パートナー
5)横浜市立大学 研究・産学連携推進センター
6)株式会社GENOVA
7)京都大学 健康情報学
8) 横浜市立大学大学院国際マネジメント研究科

本稿は、ヘルスコミュニケーションウィーク2025 in Hongo, Tokyoにおいて開催された第4回日本ヘルスマーケティング学会学術集会シンポジウム「ヘルスコミュニケーションを支える資金調達戦略」の議論を整理したものである。 本シンポジウムでは、研究者、医療機関、NPO、企業、自治体といった多様なアクターが、持続可能な活動基盤を築くための資金調達に焦点を当て、社会的インパクトを拡張するための戦略を検討した。 資金調達は、単なる金銭の獲得ではなく、個人支援者、企業、公的機関、地域社会を含むステークホルダーの行動変容と共創を促すマーケティング戦略として位置づけられる。 市川衛氏は、クラウドファンディングを資金調達にとどまらず、プロジェクトのファンを拡大するコミュニケーション・ツールとして活用する方策を論じた。 井上祥氏は、持続可能な医療情報発信のために、公共性と経済性を接続する視点から、民間企業やデジタルプラットフォームの役割を提示した。 原広司氏は、医療・介護・健康分野におけるインパクト投資、特にソーシャル・インパクト・ボンドや成果連動型民間委託契約方式の課題と可能性を整理した。 総合討論では、クラウドファンディングの始め方、利益相反管理、医療情報発信における規制と自由、公的セクターの役割、情報格差への対応などが議論された。 本シンポジウムを通じて、ヘルスコミュニケーションを研究・実装・資金の三位一体で推進することの重要性が確認された。

ヘルスコミュニケーション・プロジェクトにおけるクラウドファンディングの活用
―資金調達にとどまらず、ファン拡大につなげる戦術とは―

市川 衛 1)2)

1) 武蔵大学 社会学部 メディア社会学科
2) READYFOR株式会社 認定パートナー

本稿は、第4回日本ヘルスマーケティング学会学術集会シンポジウムにおける報告に基づき、ヘルスコミュニケーション・プロジェクトにおけるクラウドファンディングの活用について整理するものである。 クラウドファンディングは、使途の自由度が高い資金を獲得する手段として注目されているが、その意義は資金調達にとどまらない。 プロジェクトの社会的意義を可視化し、支援者に共感を促し、継続的に応援する「ファン」を拡大するコミュニケーション戦略として機能する点に重要性がある。 医療領域におけるクラウドファンディングは、設備購入・建築改修、研究・開発費、教育・研修費、地域福祉活動などに活用されており、近年は災害対応を含む大型案件もみられる。 成功のためには、適切なプロジェクト設計、社会的意義を持ったストーリー、支援者層に向けた着実な広報発信が不可欠である。 また、実施にあたっては、企画運営、広報、経理、受付対応などを担うチーム体制の構築が求められる。 クラウドファンディングは、ヘルスコミュニケーション活動の持続可能性を支える有効な手段である一方、民間資金は「心を動かす」物語に集まりやすいという特性を持つ。 そのため、ストーリー化しにくいが社会的に重要な領域については、公的資金による支援も不可欠である。 クラウドファンディングは、ヘルスコミュニケーションにおける多様な資金調達戦略の一部として位置づける必要がある。

持続可能な医療情報発信のために ―公共性と経済性の間をつなぐ視点から―

井上 祥 1)2)3)

1) 横浜市立大学 研究・産学連携推進センター
2) 株式会社GENOVA
3) 京都大学 健康情報学

本稿は、第4回日本ヘルスマーケティング学会学術集会シンポジウムにおける報告に基づき、持続可能な医療情報発信のための資金戦略について整理するものである。 デジタル化が進展した現代において、医療情報発信の課題は、科学的に正確な情報を作成することにとどまらず、その情報を患者・市民・医療従事者に継続的かつ効果的に届けることにある。 情報が氾濫し社会的混乱を招くインフォデミックへの対応は、ヘルスコミュニケーション上の重要課題であり、近年では情報そのものが健康の決定要因であるとの認識も示されている。 一方、医学知識の急速な更新に伴い、エビデンスの創出、診療ガイドラインの作成・更新、医療情報の編集・発信には多大な人的・財政的資源が必要となっている。 科学的妥当性を備えた情報を必要な人に届けるためには、ナラティブアプローチやデジタルマーケティングを含む伝達上の工夫が不可欠であり、その実装には持続可能な資金基盤が求められる。 民間企業、デジタルプラットフォーム、大学、公的機関は、それぞれ異なる役割を担い得るが、情報内容の独立性、透明性、利益相反管理を確保する必要がある。 今後は、公共性、伝達効果、経済的持続可能性、ガバナンスを統合した医療情報発信モデルの構築が求められる。

医療・介護・健康におけるインパクト投資の課題と可能性

原 広司

横浜市立大学大学院国際マネジメント研究科

本稿は、第4回日本ヘルスマーケティング学会学術集会シンポジウムにおける報告に基づき、医療・介護・健康分野におけるインパクト投資の課題と可能性を整理するものである。 インパクト投資とは、金銭的リターンと同時に、社会的・環境的インパクトの創出を目指す投資である。 医療・介護・健康分野では、ソーシャル・インパクト・ボンド(Social Impact Bond: SIB)や成果連動型民間委託契約方式(Pay for Success / Pay for Performance: PFS)が、 エビデンスと社会実装の間に存在する資金調達上のギャップを補完する仕組みとして注目されている。 日本国内のPFS事業は、海外と比較して医療・介護・健康分野の比重が大きいという特徴を持つ。 一方で、事業者や基礎自治体にとってのインセンティブの弱さ、収益性の低さ、アウトカム評価の困難さ、評価コスト、データ取得可能性、政策リスク、倫理的課題など、普及には複数の障壁がある。 もっとも、SIB/PFSは、行政プロセスの再構築、新たなアプローチの検証、関係者間のネットワーク形成、アウトカム志向の政策実装を促す可能性も有している。 今後、医療・介護・健康分野においてインパクト投資を活用するためには、研究者がメンタルヘルス不調による生産性損失や時間貧困の測定など、投資判断と成果評価に資する根拠データを提示することが重要である。 インパクト投資は万能な解決策ではないが、健康関連領域における社会実装と資金調達を接続する一つの有力な選択肢である。

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