日本メディカルコミュニケーション学会
第4巻 第1号

〈特集〉

臨床 ・ 疫学研究におけるデータシェアリングの現状と今後

木内貴弘 1) 、中山健夫 2)

1)東京大学大学院医学系研究科医療コミュニケーション学分野
2)京都大学大学院医学研究科健康コミュニケーション学分野

臨床 ・ 疫学研究におけるデータシェアリングの現状と今後
―ICMJE recommendations と 安全保障(security)の観点から

中山健夫

1) 京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻健康情報学分野
2) 京都大学医学部附属病院倫理支援部

研究成果のデータシェアリングは貴重なデータの二次利用による新たな知見の導出、研究不正の抑止と事後的検証を目的として推進されている。文部科学省や厚生労働省のガイドラインでは、捏造、改ざん、盗用の三つが特定不正行為として定義され、不正の疑いを受けた際の調査対象となる。本稿では、研究公正・出版倫理の観点からデータシェアリングを論じると共に、研究セキュリティの視点から慎重な議論の必要性を述べる。国際医学雑誌編集者委員会(ICMJE)は、臨床試験データのシェアリング計画の作成と2次解析の著者に対してデータ作成者への適切なクレジット提供を求めている。データシェアリングの認識は資金提供機関の指針の影響が大きいが、学術誌の投稿規定ではシェアリングに関する記述はまだ限られている。 一方で文部科学省は重要技術分野でのリスク評価を導入し、情報セキュリティ強化を進める方針を発表した。国際連携と経済安全保障を両立するため、同省は国際研究開発政策課を新設し、AIなどの分野にも対象を拡大する方針である。米国の政府機関も「不適切な外国の影響」を防ぐための指針や法律策定を進めており、このような海外動向を踏まえつつ、国内でも問題意識を高め、適切な方向性を模索していく必要がある。

臨床 ・疫学研究におけるデータシェアリングの現状と今後
―統計家の立場から

大庭幸治

東京大学大学院 情報学環

データシェアリングには 、研究結果に対する透明性の確保のみならず、データ共有による医学の向上、科学の 進歩に対する期待が大きい。特に近年は、様々なデータ共有プラットフォームが構築され、プラットフォームを ハブとして個票データ( Individual Participant Data: IPD IPD)の共有も進み、それによる多くの成果が見られてき ている。 統計的には、 同様に既存のデータを取り扱う メタアナリシスの分野で、論文情報ではなく、 IPD を用い たメタアナリシスを行うことによる利点が 以前から 議論されてきた。データシェアリングによる IPD の利活用に ついて、メタアナリシスにおける議論は大いに参考となる と考える 。本稿では、臨床試験・臨床研究におけるデ ータシェアリングに焦点を当て、利活用における統計的な観点 ならびに IPD 共有による近年の研究成果 について 講演した内容を まとめる 。

臨床 ・疫学研究におけるデータシェアリングの現状と今後
―データシェアリングサイトの立場から

木内貴弘

1)東京大学大学院 医学系研究科医療コミュニケーション学分野
2)東京大学医学部附属病院 UMINセンター

【はじめに】臨床 ・疫学 研究の症例データシェアリングは、再度の統計解析による新知見の探索、メタアナリシ ス、統計解析の妥当性の検証等のため、欧米 を中心に その必要性が強く認識されている。 【UMIN ICDSの現状】 UMIN ICDS(=Individual Case Data Sharing system)には、症例データ 、研究計画書 、症例デ ータ仕様書 の 3種類の情報が 登録可能であ る。症例データの登録は、 465件( 3種類すべて登録は 306件)であ り、 確実に 存在するものの臨床研究の実施数と比較するとごくわずかである。 【考察:症例データシェアリング】 ICMJE(International Committee of Medical Journal Editors)加盟雑誌については、 臨床試験の論文には、 「データシェアリング計画 」の 掲載 が義務付けられているが、 「データ共有を実施しない こ と」 も許容されている。一方、欧米の研究助成機関が研究費の審査時にデータシェアリングを義務付けることが 増えている。 日本でも令和 6年度より、公的研究費による研究のデータ共有計画提出の義務付けが開始された。

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