日本メディカルコミュニケーション学会
第5巻 第1号

医療の言葉を「翻訳」する
:インフォデミック時代のメディアと現場をつなぐコミュニケーション戦略

市川衛1)2)3)

1) 武蔵大学 社会学部 メディア社会学科 准教授
2) 広島大学 医学部 客員准教授
3) 一般社団法人 メディカルジャーナリズム勉強会 代表理事

SNSや生成AIの発展・普及の中で個人が接触できる情報量が大きく増える中で、正確な情報と偽・誤情報が混在し急速に拡散する「インフォデミック」のリスクが高まっている。 医療現場が重視する慎重さと、メディアが重視するニュースバリューの間には断絶が存在し、これが患者の誤解や医療不信を招く要因となっている。 本稿では、医療情報の伝達プロセスを単なる言語的平易化ではなく、受け手の適切な行動変容を促すための「翻訳」として再定義する。 脳の認知特性(Backfire(逆噴射)効果やDanger-Priming(危険プライミング)効果など)を考慮した戦略的なコミュニケーションのあり方、および生成AIを活用した新たな「翻訳」の可能性について考察する。

多職種チームにおけるがん診療の現場から:対話で築く意思決定支援

渡邊清高1)

1)帝京大学医学部内科学講座 腫瘍内科

がん診療の高度化に伴い、手術、薬物療法、放射線療法に加え、支持医療、緩和ケア、サバイバーシップ支援を含む包括的な対応が求められている。 そのためには多職種による連携と患者・家族の価値観に基づく対話的な意思決定支援が重要である。 がんにおける情報格差、一方向的な情報提供の限界、生成AI活用の可能性と課題を整理し、2022~2024年に全国各地で実施した医療者向け研修プログラムの成果を紹介した。 参加者の多くが多職種連携の意義や患者ニーズに基づく支援の実践への理解の深まりを示す結果であった。 生成AI搭載の活用や、医療・健康情報を読み解く活動などにより、リスクコミュニケーションの体系化、質が高く効果的な情報発信、AIの可能性と課題を認識した上での支援手段を統合していくことで、 安心で納得のいく意思決定と相互理解に基づく医療の実現につながると考えられる。

薬局から始まる医療者間連携:地域で支える生活者の健康

岡田浩1)

1)京都大学大学院医学研究科社会健康医学系予防医療学

高齢化の進展に伴い、慢性疾患を有する患者が増加する中で、多職種連携による包括的な医療の重要性が高まっている。 本稿では、日本メディカルコミュニケーション学会シンポジウムにおける講演内容をもとに、地域薬局を起点とした医療者間コミュニケーションの役割と可能性について論じた。 薬局薬剤師は、患者の日常生活に最も近い医療専門職として、生活背景や価値観を踏まえた支援を行うことができる。 講演では、薬局での実践事例およびCOMPASS研究の結果をもとに、薬剤師による介入がHbA1cや血圧の改善に寄与することを示した。 地域の薬局は、生活と医療をつなぐ拠点として、医療者間コミュニケーションのハブとなる可能性をもっている。 本シンポジウムでは、地域に残された数少ない医療資源として薬局を活用することで、持続可能な地域医療の実現に向けた提案を行った。

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