加藤和人1)、木内貴弘2)
1) 大阪大学大学院医学系研究科医の倫理と公共政策学分野
2) 東京大学大学院医学系研究科医療コミュニケーション学分野
定松 淳 1)
1) 埼玉大学大学院人文社会科学研究科
サイエンスコミュニケーションにおいて重視されるようになってきた概念として、「欠如モデル」の概念がある。 これは、近年世界的に発展している科学技術社会論という研究分野において生じてきた概念である。 本稿では科学技術社会論の重要著作4点を概観し、その研究潮流を把握したうえで、欠如モデル概念に説得力を与えた事例研究を紹介する。 また、この事例研究や欠如モデル概念に対する批判についても確認する。科学技術社会論は科学批判という側面をもっており、そこから現在進行形の科学における科学の不確かさに焦点を当ててきた。 このことを踏まえると、欠如モデルという批判から求められているのは、単に「知識の押し付けは良くない」といった道徳的な要請だけではなく、 サイエンスコミュニケーションを行う主体が「自らの立脚する知識の不確かさに自覚的になること」であることが示唆される。
見上 公一 1)
1) 慶應義塾大学 理工学部 外国語・総合教育教室
21世紀に入り、科学と社会の間に双方向のコミュニケーションが必要だということが繰り返し強調されてきた。 科学技術社会論では、科学には本来社会的な要素が含まれており、そのようなコミュニケーションは科学の道筋についての決定権を多くの人に開放する意味を持つと考える。 その先行事例となったのは医学研究であり、1990年代のアメリカのHIV感染者団体やフランスの筋ジストロフィー患者団体は、専門知識を学びつつ研究者と協働することで、研究の妥当性の向上や領域の発展に貢献した。 しかし、現在の先端医学研究では、特定の患者や患者家族だけでなく、広く市民とのコミュニケーションが求められている。 限られた社会の資源の投入を左右する「期待」を巡り、研究者や行政、企業が提示する未来のビジョンによって、市民がその不確実性を認識できずに過剰な期待を抱いてしまう可能性が指摘されている。 さらに、近年の「役に立つ」科学を求める風潮は、そのような過剰な期待を煽る要因にもなっている。 このように考えると、適切な双方向コミュニケーションの実現には、伝える側と受け取る側の関係だけでなく、研究活動を取り巻く社会環境の改善も視野に入れた議論が必要だろう。
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