阿部恵子1)2)
1) 日本看護コミュニケーション学会会長
2) 金城学院大学看護学部看護学科
阿部恵子1) 、藤崎和彦2)
1)金城学院大学看護学部看護学科
2)岐阜大学医学教育開発研究センター
藤崎和彦
岐阜大学医学教育開発研究センター
今まで多くの場で看護師、看護学生と模擬患者との面接セッションを持ってきた立場から、医療コミュニケーショ ンの中の看護コミュニケーションについて述べた。看護系教育での コア・カリキュラム において、看護系人材として も、公衆衛生看護においても、助産師教育においても、求められる能力アウトカムの中に「コミュニケーション能力」 が掲げられており、看護師として看護過程を展開するうえでも、入口の情報収集、後半での心理社会的看護問題に対 する看護介入において「コミュニケーション能力」は必須の技能となっている。コミュニケーション能力はある種の 身体化された技能であるため、知識の上で「こういう時はこういった声掛けが望ましい」という事が分かっていても、 実際にいざ必要な時に自然とふさわしい声かけがタイミングよく口から出 てこないと意味がないので、具体的な技能 トレーニングとして医学部や歯学部、薬学部では模擬患者参加型の具体的な技能教育が行われているが、看護教育に おいてはまだまだそういった教育が不足している。実際の看護学生のコミュニケーションも見ていて気付く問題点 は、 1) 学生の関心が現状の患者の身体状況や現状の患者の受けとめや不安が中心になっていて、より全人的な患者の 全体像を把握 出来 るような患者の 病のストーリー(ナラティブ)を病初からオープンに聴く訓練を受けていないこと、 2) 事前準備でステレオタイプ的な患者像を作りすぎてしまい 、「きっとそう に違いない」とばかりに、それを closed question (閉鎖型質問)で決め打ちに行って、空振りをした途端にどうしていいか分からずにたちまちお手上げにな るパターンが多いこと、 3) 基本的な関係づくりが出来ていないので、その先のアセスメントや介入にも進めないこと、 4) 簡単に「患者の不安を解消 出来 る」と思いこんでいることが多いが、学生レベルで出来ることは患者の不安を傾聴、 共感出来たら十分と考えるべきことなどである。最後に、医療福祉系専門職が陥りやすいコミュニケーション上の落 とし穴についても論じて いる。
阿部恵子
金城学院大学 看護学部看護学科
コミュ ニケーションは看護師にとって看護実践の基盤と なる 重要な臨床能力であることに 異論 はない。看護におけ るコミュニケーション教育は 、患者と看護師の対人コミュニケーションとして、傾聴、共感、受容などスキル型教育 が主流 であ る。スキル型コミュニケーションは標準化される意味では、初学者には有益 だが、対象者の個別性を理解 した上でのコミュニケーション は十分とは 言えない。 また 、医療・福祉領域 の対象者は高齢者が多く、将来を担う Z世代の学生の特徴を 踏まえた 教育方略 の検討 が求められる 。 厚生労働省は、 看護実践能力育成のために模擬患者 (Simulated Patient: SP)やシミュレーターの活用を推奨している。 経験学修は、 コミュニケーションの相互作用を学 ぶ上で 有用であり、 高齢 SPとの看護面接演習 もより 現実的である 。 SPから のフィードバック による 気づき や学び の効果は多く報告されている。 人生経験豊富な高齢 SPの背景理解や 尊 厳を大切にした コミュニケーション を踏まえ、 看護 基礎 教育 4年間で 本質に迫るコミュニケーション 能力 を育成 す る教育体制 の確立 が必要である。
高山智子
静岡社会健康医学大学院大学 社会健康医学研究科
医療機関で患者等から適切な医療や支援につなげる情報を収集し、患者を支えることは一職種で行われることで はない。患者や家族の視点から見れば、受付の事務スタッフやボランティア等の存在も、自身の困りごとや医師に言 いたかったことを代わりに伝える存在として捉えられている。すなわち、医療機関で働くすべてのスタッフが、患者 を支え、適切な医療や支援につなげる役割を担っている。 医療が細分化し、専門性が高まることでさまざまな職種が生まれてきた。また在院日数の短縮化や治療の場 の入院 から外来治療へのシフトにより、医療スタッフらが個々の患者とゆっくり話ができる時間や機会が減っている。働き 方改革もこれに拍車をかけている。多忙な限られた時間の中で、患者が必要とする医療や支援を適切なタイミングで 届けるためには、医療機関内のあらゆるスタッフが、意識的に患者に関わり、適切な“連携”をとっていくことが重 要である。本報告では、事務員も含む医療機関内のスタッフに対して、“患者の疑問や知りたいこと”を収集 する目 的で実施した調査の内容分析の結果から、患者を支えるさまざまな職種の看護コミュニケーションの役割を考える 機会としたい。
杉本なおみ
慶應義塾大学
医学・歯学・看護学・薬学教育モデル・コア・カリキュラム(以下「 コアカリ」) において、 コミュニケーション が重要学修項目として 掲げ られ ていることは 、日本の医療系大学・学部 における コミュニケーション教育の大きな 推進力となって きた 。その 一方 で、これらのコミュニケーション に関する 記述には、コミュニケーション学の基本 概念に準拠しない内容 も散見され る。このようなカリキュラムに沿った学修ではコミュニケーションの本質を 正確 に理解すること が難しく、卒後の厳しい現実に適応できない事態に至る ことを 危惧するコミュニケーション 学研究 者は少なくない。 筆者 はその 一人として、かつて看護学( 2017)・医学 (2017)・歯学 2017)・薬学( 2013)各コアカリ から コミュニ ケーションに関する記述を抽出し、コミュニケーション学の基本概念(例:プロセス性)との合致度に基づく比較を 行った (杉本 2023)。本稿 はその続報として、 看護学( 2017)・医学 (2022)・歯学 2022)・薬学 2022)各コアカ リにおける コミュニケーション の捉え方を描出すると共に、分野 間の共通点・相違点 およびそれらが看護師養成学士 課程 での コミュニケーション教育に 与える影響 について論じる。
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