日本ヘルスコミュニケーション学会雑誌
第11巻 第1号

総説

ヘルスコミュニケーション学の研究方法論の探究-これからの10年に向けて

木内貴弘1)、奥原剛1)、上野治香1)、岡田宏子1)、石川ひろの2)、高永茂3)、中山健夫4)、高山智子5)、河村洋子6)、加藤美生2)

1)東京大学大学院医学系研究科医療コミュニケーション学分野、2)帝京大学大学院公衆衛生学研究科、3)広島大学大学院文学研究科、4)京都大学大学院医学研究科健康情報学分野、5)国立がん研究センターがん対策情報センター、6)静岡県立文化芸術大学文化政策学部

ヘルスコミュニケーション学が日本において独立の学問分野としての一定の認知を得た現在、今後に向けて一層の研究成果が要求されている。このため、これからの10年に向けて、ヘルスコミュニケーション学の研究方法論の探究を行うことは、非常に重要な課題となっている。そこで、これを第11回日本ヘルスコミュニケーション学会学術集会のテーマとして採用することにした。人類のコミュニケーションの歴史をたどって、対人コミュニケーション研究、文書研究、映像研究というヘルスコミュニケーション学の3つの主要な研究領域を同定した。そして、この3つの領域に対応した3つのシンポジウムを企画した。更にヘルスに限定されない専門家と非専門家との間のコミュニケーションを含めた研究方法論を俯瞰するために、東京大学大学院情報学環・学際情報学府の石崎雅人教授に基調講演を依頼した。これらの企画は、ヘルスコミュニケーションの研究者が次の10年に向けて、自らの研究戦略を立てるために非常に有益であると考えている。

ヘルスコミュニケーションにおける専門家と非専門家の架橋

石崎雅人

東京大学大学院情報学環・学際情報学府

論考では,ヘルスコミュニケーション研究における会話,情報,行動変容に関して研究の前提を問い直し,学術研究の専門家と非専門家を架橋する可能性を考察する.会話に関しては機能分析と会話分析の現場への適用について検討し,会話の認知過程に関する理論が果たすことができる役割について議論する.情報に関してはインターネットにおける健康・医療情報の質に関する問題を取り上げるとともに,検索過程の研究において置かれる仮定について検討し,そこから考えられる情報の布置について考察する.行動変容についてはヘルスプロモーションのモデルにおけるヘルスリテラシーの位置付けを確認し,ソーシャルサポートなど医療消費者が置かれる環境との関係を考慮することの可能性について議論する.最後に学術研究を発展させる原動力のひとつに研究の前提の問い直しがあることを確認し,学術研究に必須である倫理審査のあり方について再検討する必要性を指摘する.

医療における対人コミュニケーション研究のアプローチ

石川ひろの1)、高永茂2)、川島理恵3)、野呂幾久子4)、藤森麻衣子5)

1) 帝京大学, 2) 広島大学, 3) 京都産業大学, 4) 東京慈恵会医科大学, 5) 国立がん研究センター

本稿は、第 11 回日本ヘルスコミュニケーション学会学術集会におけるシンポジウムⅠ「医療における対人コミュニケーション研究のアプローチ」から、各シンポジストの報告と会場での議論をまとめたものである。シンポジウムでは、①「そこで何が起きているのか」を明らかにしようとする質的・記述的な研究(会話分析)、②「どのような要因やアウトカムとどの程度関連するのか」という関連性を量的に示そうとする研究(機能分析:RIAS)、③「教育的介入によって変えられるのか」という教育の効果を明らかにしようとする研究(コミュニケーション・スキル・トレーニングの無作為化比較試験)を取り上げ、各研究がどのような理論的背景に基づき、何を明らかにしようとしてきたのか、日本における実証研究をもとに報告するとともに、研究を実施し、論文化していく上での困難や対処についても議論した。さまざまな分析方法、研究手法の背景には、それぞれのパラダイムや理論的枠組みがある。それらも含めた相互理解を広げていくことが、異なる研究アプローチのコラボレーション、学際的な共同研究を進めていく上で重要である。

医療情報をどう作り、どう届けるか~文書に関する研究アプローチ

中山健夫1), 高山智子2),酒井由紀子3), 早川雅代2), 北澤京子4), 西村多寿子5)

1) 京都大学大学院医学研究科、2) 国立がん研究センターがん対策情報センター、3) 東京財団政策研究所、4) 京都薬科大学、5) プレミアム医学英語教育事務所

日本におけるヘルスコミュニケーション学の中で、文書を扱った研究は、内容や量ともにまだ発展途上にある。本シンポジウムでは、文書に関する研究アプローチについて4名の研究者が話題提供を行った。文書の基本となる読みやすさやわかりやすさ(リーダビリティ)の研究と国内外の動向を概観したのち、患者の意思決定を支え、促すための患者向け医薬品情報に書かれる内容や作り手の視点からの患者向け医療情報の文章表現に関する研究の紹介、新聞記事と検討会議事録のテキスト分析をもとにした新聞報道の国の制度設計への影響の研究が紹介された。参加者の関心や研究テーマは異なっていたかもしれないが、シンポジウムでは、文書研究に関わる問い(リサーチクエスチョン)や、取り扱う文書の分析視点や分析方法、客観性や倫理的な課題など、文書情報に関わる研究アプローチのさまざまな視点や視座があることを、議論を通じて共有することができた。本シンポジウムが刺激となり、研究者や実践者たちにより文書に関する研究や取り組みがさらに発展し、ヘルスコミュニケーションが改善されることが期待される。

映像を創る、映像を分析する

加藤美生1)、河村洋子2)、市川衛3)、渡邊清高4)、伊藤守5)

1) 帝京大学大学院公衆衛生学研究科、2) 静岡県立文化芸術大学文化政策学部、3) 日本放送協会、4) 帝京大学医学部内科学講座腫瘍内科、5) 早稲田大学教育・総合科学学術院

テレビは、多くの一般人にとって主要な医療・健康情報源のひとつであり、不特定多数の視聴者の知識、態度、行動に影響を与える。テレビ番組には、ニュース報道やドキュメンタリーなどのノンフィクションから健康バラエティ番組や医療ドラマなどのエンターテイメントなどがあり、その番組特性は多岐にわたる。各番組が取り扱う医療・健康情報が科学的根拠のある内容であり、医療に対する信頼を損ねない内容であることは、ヘルスコミュニケーション研究の重大なテーマである。しかし、映像を対象とした研究は日本では未だ確立しているとは言えない。本シンポジウムは、テレビ医療・健康番組の制作者、医療者の目線で医療記事の評価に携わっている医師、そしてテレビ研究の第一人者が会し、急激に変化するメディア環境における医療・健康に関する映像コンテンツの変遷や課題、研究方法を論点として、課題と今後の方向性について議論することを狙って企画、実施したものである。

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