日本ヘルスコミュニケーション学会雑誌
第14巻 第2号

原著論文

著名人の乳がん罹患公表が成人女性の乳がんに対する意識,知識,行動に及ぼす影響

田中 奈美1)、井澤 晴佳1)、安藤 晴惠1)、 籔下 紘子1)、ニヨンサバ フランソワ2)、野田 愛2)、大野 直子2)

1)順天堂大学大学院医学研究科医科学専攻医療通訳修士課程、2)順天堂大学国際教養学部/順天堂大学大学院医学研究科医科学専攻医療通訳

背景 近年、在留および訪日外国人の増加に伴い、外国人の日本における受療機会が増加し、コミュニケーションの問題に起因したトラブル事例も報告されている。本研究では外国人患者の会話理解と医療通訳ニーズの関連因子について質問紙調査を通して明らかにすることを目的とした。方法 日本の病院で受診経験のある日本語を母語としない者1810名に、個人属性、受診状況、病気認知、患者満足度に関する質問紙を配布した。有効票151名を対象に二項ロジスティック回帰分析によって会話理解および医療通訳ニーズとの関連項目を抽出した。結果 会話理解は、受診形式の「通訳(患者言語が英語以外)」(0.20; 0.05–0.79)と「機械翻訳」(0.15; 0.03–0.82)と有意な関連があった。医療通訳ニーズは「英語回答者」(4.45; 1.14–17.35)、「中国語回答者」(5.25; 1.07–25.85)、「病気への理解」(1.24; 1.00–1.52)と有意な関連があった。結語 医師との直接会話は通訳を介するより会話理解を高める傾向がみられるが、理解有の状況でも医療通訳にはニーズがあることが明らかになった。

コロナ禍における若者の医療・健康情報入手の実態と入手に対する不満の要因――自己効力感とeヘルスリテラシーの観点から――

金城光1)、須賀茜1)

1) 明治学院大学 心理学部

本研究はコロナ禍における若者の医療・健康情報入手に関する実態、および入手に対する不満とその関連要因を検討するため、東京オリンピック開催時に都内在住の大学生、大学院生642名を対象にオンラインで行われた。医療・健康情報は主にTVや情報サイトから入手しており、情報の重要度の認識はワクチン接種を筆頭に総じて高かったが、情報量の多さや信頼性等に対する不満を強く感じていた。情報入手の関連要因および不満との関係を調べるため共分散構造分析を行った結果、情報の重要度の認知が情報希求度を介して情報入手の程度に影響し、自己効力感は健康情報希求度と情報入手の程度に影響した。つまり、COVID-19関連の情報入手の程度を高めるには、情報の重要度の認知だけではなく、情報希求欲求や自己効力感の向上が重要である。また、eヘルスリテラシーは情報希求欲求によって高まるがCOVID-19の情報入手の程度とは関連せず、これはCOVID-19の情報入手の難しさを示しているかもしれない。さらに、医療・健康情報入手に対する不満度は複数の要因で説明され、不満解消のためにはeヘルスリテラシー向上や適切な情報へのアクセス方法の周知などの介入方法が検討できる。

研究資料

産科医療に従事する多職種チームメンバーを対象としたシェアード・ディシジョンメイキング教育プログラムの開発プロセスと受容性の検討

大坂 和可子1), 青木 裕見2), 納富 理絵3),遠藤 亜貴子4), 中野 美穂5), 有森 直子6)

1)慶應義塾大学看護医療学部,2)聖路加国際大学大学院看護学研究科,3)秋田大学医学部附属病院,4)前)東京医療保健大学千葉看護学部,5)新潟大学大学院保健学研究科博士後期課程,6)新潟大学医学部保健学科

目的:本研究の目的は、産科医療に携わる多職種チームメンバーを対象としたシェアード・デシジョンメーキング(Shared Decision Making:以下SDM)教育プログラムの開発プロセスを記述すること、およびその一貫として本プログラムの適用を試み、受容性を検討し改善点を明らかにすることである。方法:本プログラムは、日本の産科医療におけるSDMの現状把握と既存の2つのSDM教育プログラムを比較検討した上で設計し、講義動画視聴と課題に取り組む個人学習(オンラインオンデマンド型)と、職場で共に働く多職種チームメンバーが合同で受講する集合学習(ロールプレイとディスカッション、オンラインライブ配信型)で構成した。2施設の産科医療に従事する多職種チームメンバーを対象に適用し、集合学習終了後に受容性や満足度を尋ねるアンケートを実施した。結果:13名がアンケートに回答し、本プログラムは概ねわかりやすく満足度が高いことが示されたが、3名は、所要時間が適切ではないと回答した。結論:本プログラムは、日本において様々な施設の産科医療に携わる多職種チームに普及できる可能性があるが、学習時間の短縮化を図り、さらに参加しやすい方法へ改善する必要がある。

総説

臨床現場における通訳の質の評価方法に関する文献レビュー

濱井妙子1) 、永田文子2) 、大野直子3) 、西川浩昭4) 、東野定律5)

1) 静岡県立大学看護学部,2) 淑徳大学看護栄養学部,3) 順天堂大学国際教養学部,4) 聖隷クリストファー大学看護学部,5) 静岡県立大学経営情報学部

目的 通訳者が介在した診療場面を録音して、通訳の正確性や臨床上重大な影響を及ぼす可能性のある通訳について検討した文献から、医療安全かつ適切な疾病管理に寄与する通訳の質の評価方法を検討する。方法 PubMed、PsycINFO、CINAHLを用い、キーワードで系統的に検索した結果、131編の論文のうち、包含基準にあった19編を対象文献とした。結果 診療場面での通訳の質は、元の発言を変更して訳出された通訳(通訳変更)を対象に評価されていた。コーディングの種類別では、正確な通訳と不正確な通訳が8編、ネガティブな影響の通訳エラーのみが9編、ネガティブとポジティブの影響の通訳変更が3編(1編再掲)であった。通訳変更による臨床的影響を報告した文献は13編で、生物医学的な影響、医師と患者関係への影響、患者の理解や安心を促す影響に分類された。定量的な結果を質的アプローチにて確認・説明していた。結論 医療安全かつ適切な疾病管理を支援する医療通訳の質の評価方法は、正確な通訳、臨床上ネガティブとポジティブな影響の通訳変更について吟味する必要があり、量的・質的データを組み合わせた研究デザインが有用である。

企画

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